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1987年の夏、フランスのブルターニュ地方に住む、14歳になる、Nicolas と、その親友 Christophe は、Nicolas の英語の先生の友人宅に、夏休みにホームステイする事になる。
ブレスト=パリ=カレー=ドーヴァー=ロンドン=スコットランド=ベルファーストの、長い旅の後、目指すベルファーストに、やっとの事で着いたものの、天気は雨。 なかなか来ない迎えを、雨の中二人は延々と待つ。 やっと現れたおばさんに連れられて、二人がやって来たのは、戦車や兵士が街角で警備を固めている Market と呼ばれる、カトリック教徒が住んでいる地域だった。
気のいいお母さんの Martha と、静かだけど、近所の人から一目置かれている家長の Henry、 18歳になったばかりの Rudy、サッカーの大ファンの11歳の Mark の4人からなるホスト・ファミリーと打ち解けて、まずまずの毎日を送っていた Nicolas と Christophe だったが、一緒につるんでばかりいて、ちっとも英語を話そうとしない二人に見かねた
Henry は、Christophe に、彼の友人宅へ引越したら、と提案する。
Nicolas と離れるのがいやで、抵抗したものの、結局、Henry の友人の家へ引っ越す事になった Christophe の新しいホスト・ファミリーは、瀟洒な屋敷が並ぶプロテスタント教徒住居地に住んでいる、プロテスタント教徒の一家だった。
1987年に、アイルランド紛争の中心地であるベルファーストに、中学生をホームステーに送り出す親がいるなんて、私には信じがたかったので、「なんて、リアリティーのない設定!」
等と、思いながら読み進んでいたのですが、本書の巻末に掲載されている、ストーリー担当の Kris さんの、作品背景に関する説明を読んで、これが、Kris 氏の経験から生まれたストーリーという事を知り、びっくりしました。
事実は小説より奇なり、というのは、正にこの事。
もちろん、本書のストーリーは、実際の体験を元にしてあるものの、全くのフィクション。
特に、本書のラストは、実際とは違っているという下りを読んで、ほっと胸をなでおろしました。
本書のストーリーも悪くはないのですが、私としては、どこからどこまでが、体験で、どこからがフィクションなのか、好奇心を刺激されてしまいました。
1987年の夏、外国人の中学生が、一ヶ月ベルファーストでホーム・スティーしたいうのは、とっても貴重な体験なので、彼らが、実際にはどういう夏休みを送り、どういう風に考えていたのか、出来れば、フィクションを交えない、ルポタージュ風なストーリーで、読ませてもらいたかったと、いう感想を持ちましたが、やはり、それでは、ストーリー性のある作品は出来ないので、仕方がない事かもしれません。
さて、グラフィックですが、水彩画を思わせる、直接着色法を使用した、漫画というより、絵画的なグラフィック。 ちゃんとコマわりしてあるので、漫画である事は間違いないのですが、コマの中に描かれている、絵は、まさに、絵画。 ほんのちょっぴり、素描画を思わせる所もあるけれど、細部まで注意が払われている、大変手の込んだ独創的なグラフィックです。 雨の描き方、背景の描き方が、とても上手いと思いました。
又、ラストの瓦礫の中に立ち尽くす少年の姿には、並大抵ののBDでは、お目にかかる事の出来ない迫力を感じました。
この様なグラフィックを見ると、
日本の漫画は娯楽、フランス漫画は芸術
と公言して憚らないフランス人たちに、一理ある事を認めざるを得ないと、ちょっとくやしい気持ちになりますね。
とにかく、今年、今まで読んだBDの中で、グラフィックの面においてはナンバー1の作品です。
という、わけで、アイルランド紛争に興味のある方、レベルの高いグラフィックのフランス漫画を読んでみたいとお思いの方に、是非お勧めしたい一冊でした。
巻末には、ストーリ担当のKris氏による、本書の背景の説明及び、アイルランド紛争に詳しい作家、ジャーナリスト、社会学者等によるアイルランド紛争に関する解説が掲載されています。
ちなみに、Kris 氏による以前に、ブログで紹介したアイルランド独立運動家を扱った小説「Mon traître」の筆者である Sorj Chalandon 氏のインタヴューも記載されているので、Sorj Chalandon のファンの方並びに、「Mon traître」の、執筆背景を知りたいという方は、興味をもたれるのではないかと思いました。
Futuropolis社の下記のページでは、本書の最初の5ページを読む事が出来ます。
(左のサイドメニューの□をクリックするとページが変ります)
【こんな人のお勧め】
アイルランド紛争に興味のある方。 レベルの高いグラフィックのフランス漫画を読んでみたいとお思いの方。
【きわめて個人的な本の評価】
総合評価 | : | 4/5 | |
ストーリー | : | 3/5 | |
グラフィック | : | 5/5 | |
フランス語難易度 | : | 3/5 | (易<難) |
読みごこち | : | 5/5 | (難<易) |
2010年5月28日に一部加筆修正。
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